もう10年以上前に、日本画家さんにモチーフを入れた印相体で落款印をお作りしたことがあります。
当時は渋谷にお住まいで、お店の前を通る時に挨拶をして頂いたり、差し入れをして頂いたり、あるいは実用品のはんこのご注文を受けたりしていました。
その画家さんの絵が有名な天満宮さんに奉納することが決まり、その絵の中の落款印は自分が作ったものと思うと誇らしい気分になれました。
しばらくお見掛けしないなと思っていましたが、久々に現れると渋谷から引っ越されていて、今日は新たな落款印をお願いしに来たそうです。
最初に作った時は、この方がどんな絵を描くか知らずにいましたが、今回はとても実力のある方と分かっていて、また天満宮さんに奉納する絵に使うつもりと分かってしまっています。
これはプレッシャーだなと言いながら接客を始めてみると、意外なほど順調にデザインが決まっていきます。信頼しているのでおまかせでという雰囲気ですが、それは困るので方向性をラフで決めて欲しいとざっと書きます。
今回は四角を得意な朱文で篆書体系でモチーフを入れて、合わせて丸で白文(字が白抜き)でお彫りすることになりました。
四角と丸の落款印を並べて押す場合、丸を上に押すのが正式と初めて知りました。
丸に白文の篆書体は初めてで、印相体で学んだ空間を埋める技術を少し使うとまとまりました。
単純な篆書体では朱色で出る部分が多すぎて、押しづらいと思われたからです。
四角はモチーフの橘家紋を文字の気持ちで彫れたことがイイところです。
あれ、なんのプレッシャーもなく出来てしまいました(笑)
篆書系でもモチーフを入れたりして、独特な落款印が作れるようになってしまったかも。
意外と上手だ(笑)
自信を持ってお渡しして数日後に電話があり、四角はんこをキャンバスに押すと真ん中が出なくなってしまい、後ろから押さえることもできないので、端っこを落として真ん中を飛び出すとように凸状の印面にできますか?問い合わせです。
トクサで周りを削って、それによって太くなったところに印刀で細く整えればなんとかなるなと思い、キャンバスを持って来て欲しいことを伝えました。
お持ち頂いた小さなキャンバスの上ではんこを押すと、キャンバスの裏側のべニア板がしなって、凹んでしまい、やはり練り朱肉を使っても、真ん中が出ません。
真ん中が出るように、ひたすら調整です。
新トクサも手も赤くなっていきます。
30分くらいでできますと言ったのですが、出来ず一旦帰って頂き、3時間掛けて試行錯誤の末なんとか出るようになりました。
もしかして、キャンバスの裏側に固いものを置けばしなりがなくなり、押せるのではとやってみましたが結局上手くいきませんでした。
キャンバスの押す位置によって、凹み具合が変わり、どの位置でも完璧に押せるのは不可能という結論に達しましたが、最初よりも出やすくなりました。
再びのお渡しの時に、
とてもこのはんこをデザイン的に気に入っていて、田のところが葉っぱになっていたり。
そこは僕が考えてしたのではないので、神さまが降りてきたのかな(笑)
こんな会話をしつつ、
上手く押せなかった場合の裏ワザをお教えして、終了です。
少しでも小さいサイズの方がキャンバスに押す場合は良いようです。
形も四角よりは、丸とか角丸の方が上手く押せる確率が高くなるようです。
とても勉強になりました。
いつかこの落款印が押されている絵を
観たいと強く思いました。