昔、誰もが知っているはんこを彫った有名職人さんに実印を彫って頂き、
使っていたものの、トラブルがあり、その最中にそのはんこが無くなってしまったそうです。
その角印の印影だけお持ちで、その雰囲気を生かしつつ、今度は丸で作って欲しいという依頼です。
練馬の佐野印房のおじいさんに彫って頂いた印影を見せて頂くと素晴らしいです。
落款印風に篆書系で彫ってあるのですが、空間の使い方が上手いのです。
しかも、当時その職人さんは、もう自分では接客できないくらい弱っていて、
最後から数本以内のはんこだそうです。
そんな段階で、こんなはんこが彫れるなんて、とてもスゴイです。
だれもが知っているはんことは、紙幣の中のはんこことでした。
でもそれは練馬では、なかった気がします。
あとから分かったのですが、練馬の職人さんは紙幣の印鑑を彫った職人さんの親戚だそうです。
つつしみ深いはんこ屋ですので(笑)
「紙幣のはんこを彫ったお店が継続しているはずなので、
そこに頼むことを考えてはどうですか」と提案してみます。
「荒見さんの印鑑も好きなので、是非お願いします」と言われてしまいます。
覚悟を決めて、接客を始めます。
昔の上手な職人さんの仕事をお手本に別のはんこを彫ることは、勉強になりますが、
大変です。なのでぐずぐず言ってみたのです(笑)
丸にざっと描きながら「この空間がほぼ等分なのが、ポイントですね」
話を聞くと見本で見せてもらったものには、龍も彫ってあったそうです。
「では、ちょっと文字の一部を龍にしますか?」
「荒見さんの好きなようにお願いします」
「では、印相体風にして、文字の一部を龍にして、玉を持たせますね」
これで、接客は終ったのですが、以前練馬の佐野印房さんで見本で押してもらったものが
見つかったので、彫る前にお見せしたいと持ってきてくれました。
一番驚いたのは、ガンピに押してあったことです。
転写用の紙になぜ?
奥様が接客され、そのへんにあった紙に押してくれたそうです。
このことで、あらためて、その職人さんの晩年であったことがわかりました。
落款印、篆刻が得意な職人さんだったようです。
個人的には、この人に紙幣のはんこを彫って欲しかったです。
現在ある佐野印房さんをググッて、電話もしてみたそうです。
「ちょっとイメージと違うでしょ」
「そうですね」
(s印房さんのホームページ、市販のフォントを使いませんなどとウタっていますが、
彫刻機メーカーのフォントで作成された書体見本でした)
受取の時、
「なんか新しいデザインで上手にできてしまいました。
もとのアイデアがスゴイのですが、それを元にこんな風に彫れる自分もすごいな〜(笑)」
「自分で自分のこと、誉める人好きです(笑)」

(印稿です)
「こんな感じで他の名前でも彫れるかな?」

荒見で書いてみました。
最初、等分に分けてみたのですが、おかしいので、こんな風にするとまとまりました。
八方位網羅していないので、印相体ではなく、
もういない職人さんとのコラボ、さのあら体とでも名づけてみましょう。