「ロゴマークやシンボルマークは、普通、企業しか持てないのを、ここではんこを作ると、私個人のためのマークを手にすることができるの。だから、ここでハンコを頼むのよ」
このように言って頂けると、はんこを使う人のことを思い作っているかいがあります。
中学生の時に、家の仕事、はんこ屋を継ごうと思いました。
それは、はんこ作りに興味があった訳ではなく、渋谷のスクランブル交差点の下で商売ができるからでした。
大学を卒業する時には、直ぐに継ぐのではなく、大きな会社と小さな会社を見てから継ごうと思いました。
そして30歳数ヶ月前に、はんこ屋に入りましたが、はんこ屋を継ぐというのは、はんこ職人になることと気付かないまま(笑)お店屋さんをやるつもりで、はんこ屋になってしまいました。
それから10年、色々な名前で、色々な書体で彫っているうちに、絵も書も上手な父より、良いハンコが作れるようになりました。
父がお店に来れなくなる2年くらい前に(今から18年くらい前)「後5年くらいではんこ屋はダメだな」と言いました。
家業のはんこ屋を継いでいる息子に、よく言うわと呆れました。
その後、父がお店に来れなくなってから、自由におしゃべりできるようになり、父の予想とは逆にお客様は増え、世の中的に、はんこ職人が少なくなり、生き残ったもの勝ちの状態になりました。
その間、緩やかに、でも確実に、はんこを押す機会は減っていきます。
その一方で、外国人旅行者で手彫りのはんこを求める人達が増えていきました。
2020年がやって来ました。
外国人さんからの手彫りのはんこの注文が爆発的に増える一歩手前で、外国人旅行者がいなくなり、スペイン在住のスペイン人とメールで手彫り印鑑のデザインを考えているところでロックダウン。テレワークの敵がハンコとなり、強引なハンコレスが始まりました。
そんな中、家業を継いだ理由だったしぶちかから離れることになりました。
2020年10月から渋谷区神宮前3丁目、原宿駅からも表参道駅からも15分くらいかかるところに、移りました。
しぶちかにいても既成品のハンコが売れなくなる予想が立つ中での移転なので、既成印鑑の売上減少は覚悟の上です。
新店舗では、新規のお客様より、しぶちか時代に縁のあったお客様達が追いかけてきてくれます。
また、紹介もして下さいます。
ホント、ありがたいです。
原宿は30年ぶりという方もいました。
でも、ふと気付きました。
新店舗では、どうも、しぶちか時代よりかなりレベルの高いはんこを求められています。
自分のライバルが自分が昔作ったはんこです。
はんこのデザインラフを書いているのではなく、シンボルマークのデザインラフを書いているのではないかと、勘違いします(笑)
しぶちかでは2坪のお店だったので対して、新店舗は8坪ありますので、作業環境が格段に良くなりました。
しぶちか時代、店舗でデザイン的な仕事は無理で、家で早朝しているだけでした。
新店舗では、お客様のいない時間なら、デザイン的な仕事から、仕上げ彫りまで、いつでもできます。
なので、デザイン的に高度なことも対応できてしまいます。
そう思いますと、今、はんこ職人の一番重要な仕事は、お客様のためのはんこのデザインを考えることではないかと思えます。
どんな仕事でも、デザインこそ重要で、そこにお金を払うべきなのに、日本では、いまだにデザインに対して、あまりお金を払う習慣がありません。
デザインして、はんこを彫ってこの値段では、安過ぎるなどと思ってしまいますが、今はとにかく、はんこを注文して頂けるのが嬉しいことなので、一生懸命作るだけです。
新店舗に来て頂けるお客様は、他店と明らかに違うはんこを手にできることを知っています。
手彫りで有れば良い時代は終わり、
はんこ職人は自分独特のデザインを売る時代になっているようです。