酔っぱらいのおじさんが入って来ました。
お酒を飲んで来るようなお店ではないと思っていますので、
席も立たず、つっけんどんに答えます。
飲みに行くと、1万円以上使うというので、
1回飲みに行ったつもりで、我慢すれば、はんこ作れますよと言いました。
はんこ屋の似顔絵が気にいったと言ってました。
酔っぱらい相手で、作業が中断させられたと思いつつ、
また集中して、彫り始めた時、さっきのおじさんが、再び登場。
銀行で、はんこを注文するためにお金を下ろしてきたと言います。
飲みに行ったと思えば、はんこが作れるなどと面白いことを言うなと思ったそうです。
結局3回飲む分の実印をご注文頂きました。
その後、ご自身用にモチーフを入れた銀行印、奥様用のモチーフ入りもご注文頂きました。
ご注文の時は、必ず一杯入っています。いや4杯くらいかな(笑)
先日、久々のご来店、自分の干支のイノシシだけ彫れるかという質問です。
「彫れますが、ホントは文字無しは、しないのですが、お客様なら特別にやりますよ。
どんなイノシシにしますか」
石のハンコの本を見ていると、
「これがいいやと、ちょうど「富」だし」
名前の1文字目が富なので、ちょうどいいということです。
「こんな風に四角にしますか、それとも丸にしますか?」
「オマカセするよ。」
「得意なのは丸なので、丸にしていいですか。」
「いいよ。」
落款印がベースですので、あえて八方位は意識せず、空間を意識してお彫りしました。
どうしても1箇所だけ、我慢できず、象形文字のいのしし、入れてしまいました。
受取りの時は、素面です。
「これ、なんのハンコだろう?」
「認印というか、気軽になんでも押せるハンコと言われてましたよ。
例えば年賀状とか、どうですか」
「今度は欠礼だけど」
「この印鑑、店頭やブログ インターネットで紹介してもいいですか?」
「いいよ。紹介したいくらい一生懸命彫ってくれたということでしょ」
「はい」
「ここに来るのも、来週まで。
最終決定ではないけど、退職だよ」
あっ、退職記念にハンコを作って下さったんだと、その時気付きました。
去り行くおじさんの背中に向って、深く深くお辞儀をしました。

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